今日の母はしきりにここを出た後の事を気にします。

 

今じゃないけど、ここを出たら私はどこに帰ればいいの?

 

 

うん?なんでそんなことを聞くの?

 

だって、昨日も介護の人にここを出ても行くところなんかないからここにいるしかないよって言われて。

 

うん、そうだったんだ。

 

それで、気になって気になって。

 

うん。

 

私はここを出たらどこに帰ればいいの?もう家はないの?

 

確かに、前に住んでた家はさ、売ったんだよ、一緒にね。

 

うん。それで?

 

それで、一度は円山に住んだけど、引っ越してきてさ、そこで足を折っちゃったから今はこうして施設にいるんだよ。

 

そこまではいいとしてさ、その後の事だよ、聞きたいのは。ここに何十年もいるわけじゃないんでしょ?

 

うんうん。その後はここを出て、今度は僕の家は広いからさ。一軒家で部屋も余ってるし、お母さんの部屋も用意してあるよ。

 

え?どんな部屋?

 

今度写真を撮ってくるから。見せてあげるからさ、今日は用意してないから。

 

あんたは、昔から人を煙に巻く人だからさ、どこまで信用していいのかわかんないんだよ。

 

え?そう??

 

うん。親の目から見て、あんたは人を安心させるためには嘘をつける人で、弟は安心させるためでも嘘をつけない人。幼少期からそう見ていたんだ。

 

いや、ほんとだよ。ここは施設だから住所地をここにできないからお母さんの住所は僕の家なんだよ。

 

それは本当だと思う。

 

一軒家で部屋は余ってるからさ。

 

うん、あんたならきっと一軒家くらいは建ててるのもわかる。

 

で、お母さんの部屋も用意してあるんだ。

 

そこは嘘だな。なんで施設にずっといていつ退院するかわかんない親のためにそんな部屋を用意する?

 

そういう風な作りにしてるってことなんだよ。ベットやテレビを置いてるわけじゃないよ。退院が決まったら用意するさ。

 

そうか・・それならわかる。

 

母のするどさは、健在です。読んでる方はわかるでしょうが、事実は母の言うとうりです。すべて母のよみが当たっています。

 

しかし、認知症で両足が不自由になった今、もはやここを退院することはないでしょう。

なんかの疾病で、専門施設に行く可能性はあるかもしれませんが、施設以外はもはや行くことはできないでしょう。

 

母をどう言ったら安心させられるか、どうしたら安心の日々を送れるか・・それだけしかないのです