今日も母は食堂で寝ているようです。
声を後ろからかけ、部屋に戻ります。
みんなは集まって歌を歌っていました。
なんで歌わないの?
あ?ガキじゃないんだし、いちいち歌なんて子供っぽいんだよ。
そう?
しかも童謡だよ。唱歌とかさ。確かに子供時代は歌ったさ。でも懐かしくもなんともない。
そうなのかな。
なんかさ、馬鹿にされている気がして。老人だったら童謡だろとか、唱歌だろうってさ。
まあ、確かにそう思ってるのはありえるかな。
そうでしょ?それが嫌なんだ。
まあ、そこまで思いがあるのなら、歌わなくていいと思うよ。だから寝てるのか・・・
そうそう。寝る以外ないもの。すっかり寝てるわけじゃないよ。半分は起きてる。部屋にも帰るにもなんだしね。
そうか・・ま、自分でわかってるのならいいよ。歌いたくなる日があれば歌えばいいし。
そうするよ。
部屋でみなの合唱を聞いていると、昔小学校なんかで歌ったのでしょう。どんぐりコロコロや、桜や、花が咲いたなど童謡をみなで合唱しています。
歌を歌うのはストレスの発散にもなるし、頭の体操にもなるし、言語の訓練にもなるし、いいことが多いです。
発音には一定の肺活量も必要ですので、心肺機能の訓練にもなることでしょう。
しかし、歌を嫌いな人もいるにはいるわけで・・母にはきっと子供の頃の思い出がいい思い出はないのかもしれません。
なにせ小学校くらいの時に、東京から根室まで連れられてきたのです。
どんな思いで、どんな状況だったのか・・
昔、日本橋に住んでいたんだよね?
なにか覚えてるの?
なにも。覚えてないよ。友達もいた記憶もない。まだ小さな年齢だった。越後谷があったんだけどね。今の三越だと思うけど。
その記憶はあるの?
うん。あるかな。そのくらいだよ。
そうだよね。
私はそこも好きでいたわけじゃないし、その後の根室だったって連れてこられただけだよ。
毎日海を見にいったよ。来る日も来る日も。根室の海をみていた。
そうなんだね。
波は飽きなかったから。いつまでも見ていれたよ。
そっか・・・
これからどうするんだろうと思っていた。
生活は苦しかったんだと思う。でも、そんな苦労は苦労じゃなかったから。みんなそうだからね
母の答えにこれ以上の質問はしないほうがいいと思いました。
